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書評のようなもの(仮)

SF、ラノベ、漫画、音楽なんかの記事をgdgd書いたり、DTMして遊んだり。

老ヴォールの惑星/小川一水

小川一水さんのSF短篇集。解説によると“環境と主体”をテーマにした物語を集めた小説なのだそうで。迷宮牢獄、仮想空間、外惑星、といった様々な世界で生きることを余儀なくされた人間や知性体がその環境に適応し変化していく模様をSFらしい骨太な文章で描いています。環境に淘汰されないために生命達(主体)自らが「かたち」を変え、狡猾に生き抜く様子がとても力強くありました。こんなにも生気に満ちたSFを読んだのは初めてかもしれない。

各短篇ごとにしっかりしたメッセージ性 もあるので、それを読み解いていくのも面白くあります。印象深いのが、木星の資源を使い尽くす知性体と人類がファースト・コンタクトする「幸せの箱庭」。無人の外惑星の海で遭難した軍人の生涯を描いた「漂った男」でしょうか。

「幸せの箱庭」は、高度な異星科学をもつ知性体との「仮想と現実」の価値観をめぐっての会話が興味深くあります。仮想世界に住むことをオススメする知性体に、人類がどういう対応をするのかも見物ですし、不意を突く最後の結末もおもしろい。二つの世界の違いがわからないほど「同じ」になると、また価値観も変わってくるものなのかもしれません。

「漂った男」は、まさに「孤独」を突き詰めた物語です。誰もいない世界をアテもなく漂い続ける主人公が、気が狂うほどの孤独に襲われつつも、どうにか生存しようと試みる様は、読んでいるこちらとしても苦しかった。主人公の生きる希望となるのが、故郷から届く恋人や仲間の「無線通信」だなんて、ちょっと悲しすぎる。でも、この状況は、「電波」を通じて他人との「つながり」を求める現実のメタファーのように思えて他人事ではないなと思ったりしました。