書評のようなもの(仮)

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My Humanity/長谷敏司

My Humanity (ハヤカワ文庫JA)ライトノベル&SF作家の長谷敏司さんによるSF中短編集。全4篇を収録したものですが、どれもテーマに重点を置いた作品ばかりで、読み応えがあります。「ITP」や「クラウズ」といったおもしろそうなSFガジェットもいろいろ詰め込んであるのですが、それを使ってエンタメ的にハッチャけるというよりは、人間のもつ様々な性質(ヒューマニティ)を探っていくような話なので、展開的にも、そう派手なものではないかなと。おもえば『あなたのための物語』や『BEATLESS』なんかも人間の死生観だったり、人とモノの関係だったり、テーマ性の高いものばかりだった。

 最初の2篇、「地には豊穣」、「allo,toi,toi」は、『あなたのための物語』でおなじみの「ITP」を扱ったSF。「ITP」を大雑把に説明すると、被験者の脳からコピーした「経験」や「思考」を別の被験者の脳(正確には疑似神経)に貼り付けるときに使う特殊な言語の名称です。貼り付けられた被験者は、元の被験者のもっていた「経験」や「思考」を身につけることができる。2篇とも、そんなテクノロジーが発展した未来を舞台にしてます。

【 ※以下、ネタばれ注意】

「地には豊穣」は、そのテクノロジーの発達がキッカケとなって、様々な文化が淘汰されようとしている時代を描いている。貴重な文化を保護することが「ITP」の目的だったのに、開発が進むにつれその技術が、いつの間にか、文化を淘汰する驚異になりつつあるところが恐ろしい。主人公は、文化に対する関心が薄く、「ITP」の開発にひたすら力をそそぐのだが、あることをキッカケに、「日本人的文化の濃い経験」を自分の脳に貼り付けることになる。そして世界の認識が変わり、文化が、人の生にどれだけ深く根付いたものか気付くのですが、同時に、経験伝達は本当に文化を淘汰する技術なのか? といったことにも疑問を抱くようになります。多くの人々を苗床にして成長していく巨大な文化が、まるで生き物のように描いてあるラストはなんというか、人間が、とてつもなく機械的なもののように感じた。「ミーム」という言葉を思い出した。

「allo,toi,toi」は、「ITP」を使って小児性愛者の主人公を矯正する話。親しかった幼児に性的暴行を加え、懲役100年の刑務所生活を余儀なくされた主人公が、その他の囚人達とおくる地獄のような毎日が、なんだかとてもえげつない。ギャングみたいな囚人達の住む刑務所では「漢気があって腕っぷしのある奴が一番偉い」という感じの世界なので、主人公のような犯罪で逮捕された者は、当然のごとく囚人達から下とみなされ、イジメにあう。警官も手のつけようがなく、見て見ぬフリをする始末。考えただけでも背筋が凍りますが、そんな絶望しかない現実世界で唯一の希望となるのが、主人公の性癖を矯正するため「ITP」によって脳に貼り付けられた「アニマ」と呼ばれる「器質」なのです。

これは、主人公の妄想に理想の女性像があらわれ、四六時中、彼の欲求不満を満たしてくれるものです。それによって外に欲求を発散させることなく内面だけで解消しちゃおうという意図があるらしい。

「アニマ」によるカウンセリングを受けた主人公は最終的に、自身が犯罪に及んだ原因に気付くことになります。しかし、それを自覚したとしても、変わるのは自分自信の内面だけであり、刑務所社会での扱いは全く改善しない。それどころかさらに悪化するラストはあまりにも悲しい。

Hollow Vision」は、『BEATLESS』のスピンオフ。“かたちのデザイン”という言葉が妙に印象に残っています。「かたち」というのは物だけでなく環境や世界といったものまで含まれているので、そう考えるといろいろ想像が広がって楽しかった。「かたち」をテーマにしたSFといえば飛浩隆さんの『象られた力 kaleidscape』を思いだします。

「父たちの時間」は、原発事故による放射能を防ぐために開発された自己増殖ナノマシンが独自の進化を遂げ、人類の驚異となる話。生物のように進化するナノマシンの発達を阻止するため仕事に追われる研究者の主人公が、家庭と仕事のあいだで板挟みになる様子がなんとも苦しい。仕事に追われるあまり、家庭がおろそかになり、 気付いた頃には、もう手遅れという救われなさが無念すぎです。

タイトルにも含まれている父(父性)をテーマにした作品ですが、 父という存在は、なんだかとても不憫だなと本作を読んで思いました。父としての役割を自分で探して、ひたすら藻掻かねばならないところとか。それこそオスの「クラウズ」みたいに。

あなたのための物語 (ハヤカワ文庫JA)

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BEATLESS

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象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

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